井田 隆研究/紹介

最近の主な研究について紹介します。


新しい粉末構造解析法の開発

長い間使われてきた Rietveld 法とは本質的に考え方が異なる「新しい粉末構造解析法」を開発しました。

[→ 新しい粉末構造解析法紹介

[→ プレスリリース


粉末回折法における粒子統計誤差

粉末回折測定における粒子統計誤差について理論的・実験的な研究を進めています。

別のページに「粒子統計に関するメモ」を公開しています。

T. Ida, T. Goto & H. Hibino,
"Evaluation of particle statistics in powder diffractometry by a spinner-scan method",
J. Appl. Cryst. 42(4), 597-606 (2009).
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井田隆・後藤大士・日比野寿
「軌道放射光粉末回折測定における粒子統計の効果」
セラミックス基盤工学研究センター年報 Vol. IX (2010)
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粉末回折測定における粒子統計の問題は粉末X線回折測定に基づく構造推定全般に影響があり, ある意味では「粉末回折法による構造推定の正当性」に関わる極めて重要な問題だと考えています。
粉末X線回折データの解析では,試料粉末中に「回折条件を満たす結晶粒が相当な数存在すること」を暗黙のうちに仮定します。そのために,粉末回折測定に使用する試料は 10 μm 以下の大きさになるように充分に細かく粉砕しなければならないと言われています。結晶の粒が粗いと,回折条件を満たす結晶粒の個数が極端に少なくなって,観測される強度に統計的なばらつきが現れます。この統計的なばらつきのことは「粒子統計誤差」と呼ばれます。
実験室で用いられる一般的な粉末X線回折計の場合に,「ランダムな配向をした結晶粒が回折条件を満たす方位を向く確率」はかなり低い値になり,観測される回折強度に寄与する結晶粒の数は普通に考えられているよりも相当少ないようです。 たとえば,代表的な結晶粒径が 5 μm 程度の標準 Si 粉末 (NIST SRM640c) の場合に,試料を回転させないで回折測定を行った場合には,普通の測定条件では計数統計誤差と粒子統計誤差が同程度の値になることが実験的に確認されました。 この場合,観測強度の平方根を統計誤差と仮定する通常のリートベルト解析は,極端な言い方をすると「やり方が間違っている」ことになってしまいます。


計数法における数え落としの補正

多くの粉末回折計のX線検出器では,X線の光子が入射したときに発生する電気的なパルスをカウントすることにより強度を測定します。この方法は計数法(カウンティング法)と呼ばれ,X線の強度に正確に比例した強度を得ることができる優れた方法です。ところが,計数システムの反応時間は有限なので,回折X線強度が高くパルスが極端に頻繁に発生する場合には「数え落とし」のせいで実際のカウント数が本来の強度より低くなる傾向が現れます。
この効果を補正するために従来法と比較して高精度な方法を開発しました。
[→ 計数法における数え落としの補正 その1](2005年6月6日公開)
さらに,この数え落とし補正を施したときに統計的な誤差をどのように取り扱えば良いかを明らかにしました。
[→ 計数法における数え落としの補正,その2](2007年9月21日公開)


対数正規サイズ分布に従う球形結晶粒からの理論回折ピーク形状

微結晶性粉末は多くの場合にサイズの異なる結晶粒の集合体なので,結晶子サイズの統計的な分布によって回折ピーク形状が変化します。ところが,「球形結晶粒が対数正規サイズ分布というサイズ分布に従う場合」というようにかなり単純化されたモデルであっても,理論的に予測される回折ピーク形状を正確に計算することは意外に難しいのです。この研究では,この問題点を明確にし,計算のしかたに少し工夫をすれば理論回折ピーク形状を正確に計算できるということを示しています。
[→ 対数正規分布に従う球形結晶粒の理論回折ピーク形状] (2005年5月16日公開)


スケール変換を用いた全粉末回折パターンの同時デコンボリューション

粉末回折データから装置収差の影響を除去するための新しい方法を見つけました。
「「実験データのフーリエ変換」と「装置関数のフーリエ変換」との商」の逆フーリエ変換」を求めることをデコンボリューションと呼び,この方法で実験データから装置関数の影響を除去できるはずです。しかし,粉末回折計の装置関数は回折角(横軸)に依存して変化するので,広い回折角範囲にわたる粉末回折データには,この方法はそのままでは適用できません。 ところが,粉末回折計の全体の装置関数を,構成要素となる収差関数の多重の畳み込みととらえれば,収差関数ごとに横軸に対して適切なスケール変換を施してやれば,多重のデコンボリューション処理により装置収差の影響を除去できることを見いだしました。
(Ida & Toraya, 2002)
[→ スケール変換を用いた粉末回折パターンのデコンボリューション


効率の良い畳み込みの計算法

「解析的に解けない積分」であっても,コンピュータを使えば数値積分という方法で積分を計算することができます。
もちろん,被積分関数の原始関数が分かっている「解析的に解ける積分」であれば数値積分を計算する必要はありませんが,もし被積分関数の原始関数の近似形式がわかっていれば,それを利用して数値積分の計算効率を向上することができます。あまり正確な近似形式ではなくても効果があり,近似形式が正確であればあるほど計算効率が向上する傾向があります。 数値計算でピーク形状関数の「畳み込み」を効率よく計算するために適用できる一般的な手法を見つけました。
(Ida, 1998; Ida & Kimura, 1999)
[→ 効率の良い畳込みの計算法


Bragg-Brentano 型粉末回折計の装置関数

実験室で使われる粉末X線回折計の多くは Bragg-Brentano 型のデザインを持っています。
このデザインの粉末回折計の正しい装置関数の数学的な形式を世界で初めて導きました。
(Ida, 1998)
[→ 粉末回折計の装置関数


2012年1月5日