ボルン・マイヤ・ハギンス・ポテンシャル
Born-Mayer-Huggins potential

名古屋工業大学
先進セラミックス研究センター
井田 隆

名古屋工業大学 環境材料工学科 3 年次授業「マテリアルデザイン」の講義ノートです。

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第2部 構造のシミュレーション
Simulation of Structure

第5章 原子の間にはたらく力
Interatomic force

5−4 ボルン・マイヤ・ハギンス・ポテンシャル
Born-Mayer-Huggins potential

ボルン・マイヤ・ハギンス Born-Mayer-Huggins (BMH) ポテンシャルは,主にイオン結合を持つ物質のシミュレーションに用いられる原子間ポテンシャルです。ボルン・マイヤ・ハギンス・トシ・フミ Born-Mayer-Huggins-Tosi-Fumi ポテンシャルと呼ばれることもあります。次の式で表されるような形式が用いられます。

φij(r) =
Zi Zj e2
4 π ε0 r
+ Aij b exp ( σi + σjr )
ρ
Ci
r6
Di
r8
(5.4.1)

この式の第1項はクーロン項,第2項は Born-Mayer 斥力せきりょく(反発力)項,第3項は双極子−双極子分散項,第4項は双極子−四重極子分散項と呼ばれます。 式中の ZiZj はイオンの価数,e素電荷そでんかe = 1.60217657 × 10−19 C), ε0 は真空の誘電率(ε0 = 8.854187817620 × 10−12 F/m)です。 AijPaulingポーリング 因子,b は反発力の強さを表すパラメータ,σi はイオンの大きさを表すパラメータ,ρ はソフトネス・パラメータと呼ばれます。 Cij は双極子−双極子相互作用のパラメータ,Dij は双極子−四重極子相互作用のパラメータです。

Pauling 因子は次式で定義されます。

Aij = 1 + Zi + Zj
ni nj
(5.4.2)

ここで ni は最外殻の電子数です。 Pauling 因子には,陽イオンでは斥力を強めに,陰イオンでは斥力を弱めにする働きがあります。

CijDij は,以下の式を使って分極率 αi と第1イオン化エネルギー Ei から見積もられます。

Cij = 3 αi αj Ei Ej
2 ( Ei + Ej )
(5.4.3)
Dij = 9 Cij ( αi Ei + αj Ej )
2 ( Ei + Ej ) Ni Nj
(5.4.4)

ここで Ni はイオンの全電子数です。 分極率と第一イオン化エネルギーには以下の関係があるとされています(川添ら 1996)。

αi = Ni e2 h2
m Ei2
(5.4.5)

(5.4.1) 中の ρbσ は結晶の圧縮率,膨張率などの実験値を使って決定されます。


【参考図書】

川添良幸,三上益弘,大野かおる「コンピュータ・シミュレーションによる物質科学 — 分子動力学とモンテカルロ法」共立出版 (1996)


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2007年7月19日作成
2013年5月15日更新