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内容:キャピラリ透過法で測定された軌道放射光粉末回折強度における粒子統計について理論的および実験的な研究を行いました。
スピナースキャン法により測定された回折強度データの統計的な解析を行うために,一般性の高い数学的な形式を示しています。この形式は,観測される粉末回折強度が「個々の結晶粒からの回折強度の畳み込み」として表現されることと,「畳込みのキュムラントはキュムラントの和に等しい」という加成性が常に成立することから自然に導かれます(参考記事:軌道放射光粉末回折測定における粒子統計の効果)。
軌道放射光を使ったキャピラリ試料透過法粉末回折測定では,平板試料反射法粉末回折測定と比較して,粒子統計誤差が試料回転(スピン)によって大きく低減されることが予測されます。
キャピラリ試料スピナーの回転角を 0.072°ステップで変化させて 360°の範囲で記録された 5000点の回折強度値は,ほぼ独立とみなせる統計的な変動を示すことが実験的に確認されました。また,平均的な結晶粒径が等しく結晶粒径分布の広がりが異なる3種類の結晶性粉末試料を調製し,スピナースキャン回折測定の結果を比較しました。
観測された回折強度の統計的な分布に関する分散と歪度(非対称性)から平均的な結晶粒径だけでなく結晶粒径分布も評価できる事を示しました。この結果は実用的な観点からも興味深い結果ですが,理論の妥当性を支持する重要な意義があります
ポイント1:キャピラリ透過法により測定された観測回折強度に関する粒子統計効果を定量的にモデル化する独自の理論を示しています。
ポイント2:従来の粒子統計理論では観測回折強度の統計分散までしかモデル化されていませんでしたが,強度分布の非対称性,さらに強度分布の任意次数キュムラントを定式化する汎用性の高い理論を導いています。
ポイント3:結晶粒径分布が対数正規分布に従うとみなせる場合には,軌道放射光キャピラリ透過モードのスピナースキャン測定で,平均粒径だけでなく分布の広がりを特徴づけるパラメータも決定できることを実験的に確認しています。
名古屋工業大学/セラミックス基盤工学研究センター/解析システム研究グループ
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名古屋工業大学 セラミックス基盤工学研究センター
解析設計研究部門 解析システム研究グループ(石澤研究室)
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2011年8月8日