キャピラリ試料の準備と評価

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キャピラリ試料の準備

適当な寸法のキャピラリ試料を準備します。 キャピラリに 25 mm 〜 35 mm 程度の長さで試料を充填することを目安にします。

ビーム幅としては通常 2.5 mm, 5 mm, 10 mm のいずれかを使います。 キャピラリ回転試料台にはゴニオヘッド(リガク A-5 型)が取り付けられており,このゴニオヘッドに足の太さ 3 mmφ のゴニオチップを取り付けます。 ゴニオヘッドのテーブル面からアーク部の曲率中心までは 19 mm です。 標準ゴニオチップのキャピラリ差し込み部の底の位置はゴニオヘッドテーブル面から 3.5 mm の高さにあるので, アーク中心への距離は 15.5 mm なので,ビーム最小幅(±1.25 mm)を利用する場合は 16.75 mm の長さ,ビーム最大幅(±5 mm)を利用する場合は 20.5 mm の長さが必要です。 余裕を見て 25 mm 〜 35 mm 程度の長さのキャピラリ試料を準備することが目安になります。

(1) キャピラリの状態を確認します。
リンデマンガラスは水分に弱いと言われています。 古いキャピラリでは壁面に析出物が現れ,極端に脆くなったり,粉末の充填がしにくくなる場合があります。

(2) キャピラリに試料を充填します。

  1. キャピラリに試料を充填する際には,キャピラリを鞘(さや)(インクの切れたボールペンの軸を適当な長さに切って洗浄したものが使いやすい)に差し込んで,タッピング(鞘の底を固い板にコンコン叩きつける)とスクラッチング(鞘の底でゴムマットや木の板を引っ掻いて細かい振動を与える)を併用すれば比較的効率よく作業が進みます。
  2. 充填部の長さと充填した試料の質量を測定しておくことを推奨します。 化学洗浄室の電子天秤を用いれば 0.01 mg の桁まで重量を測定することができます。
    天秤の内部が汚れていることが少なくないことには注意してください。 ただし,薬包紙は手で直接触れると汗を吸って重量が変化するので,使わないか手袋をはめて使う方が良いでしょう。
  3. キャピラリ試料の太さと線吸収係数は実測で決定することを推奨しますが, 充填部の質量と長さを求めておけば,太さの実測値から計算で線吸収係数を求めることができるので,見積もられた値をチェックするために利用することができます。

(3) キャピラリを切断,封止します。

  1. 不燃性の試料であれば,充填した後にキャピラリをライターの炎を使って焼き切るのが簡便です。切断と封止を同時に済ませることができます。
    キャピラリの広い範囲に炎があたると,軟化したガラスが重力の影響で少し垂れてしまいます。 なるべく細い炎の先端に目的の位置を近づけて,すばやく焼き切るようにします。
  2. キャピラリを折るときには,紙ヤスリを二つ折りしたものなどを使って鋭く細い傷を付け,息を吹きかけるなどして傷口を少し湿らせてから,主に引っ張る力を加えるようにすれば,かなり高い確率で目的の位置で切断することができます。 破断部は脆く割れやすいことに注意してください。 破断部をエポキシ系の接着剤など(アラルダイトなど)で封止しておけば,同じ試料を繰り返して測定に用いることができます。

キャピラリ試料の設置

(1) ゴニオチップの準備

  1. キャピラリをゴニオチップに挿入する前に,針金でゴニオチップの内側を探るようにして,きれいにしておきます。
  2. ゴニオチップを回転試料台のゴニオヘッドにとりつけます。

(2) キャピラリ試料をゴニオチップに装着します。

  1. キャピラリをゴニオチップに挿入します。
  2. 油粘土を指でよく練って柔らかくしたものを使って,押さえつけるようにキャピラリをゴニオチップに固定します。

キャピラリ試料の芯出し調整

キャピラリ試料の軸がキャピラリ回転試料台の回転軸と一致するように,光学顕微鏡で見ながらゴニオヘッドのアーク部と手動 X-Y ステージを操作して,傾きと位置(偏心)を調整します。以下のことに注意してください。

(1) 傾き調整も偏心調整も,「180° 回転させてずれた分の半分戻す」のが基本操作です。

(2) はじめは傾き調整と偏心調整を交互に行いますが,最後は「上から下に向かって調整を進める」ようにします。 特にゴニオヘッドのアーク部は摺動摩擦で角度が固定されているだけなので,少し力が加わっただけで角度がずれます。 下側のアーク部を調整した後に上側のアーク部に触れると,上から伝わる力で下側のアーク部が少し動く可能性があります。

(3) 市販のキャピラリにはわずかに「反り」があるものや「断面形状の真円度が低い」ものが含まれている場合もあります。そのような場合芯出し調整が少しやりづらくなるかもしれませんが,それでも「入射ビームで照射される範囲でだけ芯が出ていれば良い」ことを前提として,芯出し調整自体はできるはずです。実際の測定でキャピラリの品質が問題になる例は稀です。

(4) 最終的にキャピラリ回転試料台のコントローラーに接続して連続回転させながら芯のブレを確認します。


キャピラリ回転試料台コントローラの操作

キャピラリ回転試料台の駆動系にはフィードバック制御されたモーターを使用しており,コネクタの脱着を行った場合には,コントローラ/ドライバの電源を入れ直す必要がある仕様になっています。

キャピラリ回転試料台コントローラには,連続回転とステップ回転の機能があります。 連続回転時の回転速度を変更したい場合には SG8030J のマニュアルを参照してください。 通常は 120 rpm(1秒2回転)の速さで回転させますが,960 rpm(1 秒 16 回転)でも正常に動作することは確認してあります。


キャピラリ回転試料台の設置

キャピラリ試料の芯出しが完了したら,キャピラリ回転試料台を回折系の Θ 軸に取り付けます。 透過光強度プロファイル測定を行う場合には,減衰板を設置しビームストッパははずしておきます。 透過光強度プロファイル測定を行わない場合には,ビームストッパを設置し減衰板をはずします。
原則的に「ビームストッパをはずす前には減衰板を設置」,「減衰板をはずす前にビームストッパを設置」して,必ずビームストッパか減衰板のどちらかが挿入されているように心がけてください。


透過光強度プロファイル測定

試料の吸収の影響が無視できない場合にはこの操作が必要となります。

市販のガラスキャピラリの実際の太さは,公称太さとかなり異なっている場合があります。秤り取った重量と充填した長さから嵩密度を計算し,線吸収係数を計算で求めることが可能ですが,キャピラリの直径に間違った値を用いると,計算値が本来の値からかなりずれてしまいます。
透過光強度プロファイルを測定すれば,試料の線吸収係数とキャピラリの太さを同時に評価することができます。長い測定時間は必要ないので,キャピラリ試料の回折測定を行う前,あるいは測定を行った後に透過光強度プロファイルの測定を実施することが推奨されます。

(1) 目的に応じた幅制限スリット(2.5 mm, 5 mm, 10 mm のいずれか)と,0.05 mm の高さ制限スリット,適切なアッテネータ(減衰板)を設置します。

(2) No. 6 検出器とアナライザを「アナライザの退避位置」に移動します。

(3) キャピラリの太さより広い範囲のゴニオベーススキャンを実行します。 例えば公称太さ 0.5 mmφ のキャピラリでは「デフォルト位置 ± 0.5 mm の範囲」を 0.01 mm ステップで,公称太さが 1 mmφのキャピラリでは「デフォルト位置 ± 1 mm の範囲」を 0.02 mm ステップで走査すれば良いでしょう。

(4) ゴニオベーススキャンの強度図形から,キャピラリの中心位置と太さ(内径),試料の線吸収係数を求めます。

  1. [MDS] メニュー ▶ [Analyze Profile...] ▶ [Analyze With Capillary...] を選択し,必要な事項(キャピラリ太さ初期値:可変;キャピラリガラスの線吸収係数:固定;スリット高さ:0.05 mm 固定;キャピラリ厚さ:固定;試料の線吸収係数初期値:可変)を入力します。
    2013年2月22日に実施された hilgenberg のリンデマンガラス空キャピラリ(公称太さ 0.3 mmφ,公称厚さ 0.01 mm)の測定では,1.2 Å 設定で,かりに線吸収係数 12.6 cm−1,厚さ 0.025 mm とすれば,概ね透過光強度プロファイルが再現されました。ただし,実測のガラス密度から線吸収係数を計算で求める作業が済んでおらず,現時点では暫定的な値です。
  2. 線吸収係数の精密な評価が必要であれば,試料を充填したキャピラリと同じロットの空キャピラリの透過光強度図形を測定します。[MDS] メニュー ▶ [Analyze Profile...] ▶ [Analyze With Capillary...] を選択し,入力要求に対して,ガラスの線吸収係数を入力,試料の線吸収係数をゼロに固定,スリット高さ 0.05 mm に固定,カーブフィッティングによりガラスキャピラリ壁厚さを求めます。
  3. 現状では,キャピラリ回転試料台の回転軸が,ゴニオメータの軸から垂直方向には 0.03 mm 程度ずれています。水平方向には 0.1 mm 程度ずれていると思われます。 Positioning 操作で,ゴニオメータ垂直位置を透過光強度走査図形の中心位置(キャピラリ回転軸の垂直位置)に移動します。

キャピラリ試料を用いた波長較正測定

実験期間中の主な測定対象がキャピラリ試料の場合でも,通常は平板標準試料を用いた対称反射法による較正測定を行いますが,平板試料を測定する予定がない場合,キャピラリに充填した標準試料について透過法による較正測定を行うことにすれば,平板回転試料台の調整を省くことができます。

キャピラリ標準試料を測定する場合の手順は波長較正用平板標準試料測定と概ね同じですが,以下の点に注意してください。

(1) 目的に応じた幅制限スリット(2.5 mm, 5 mm, 10 mm のいずれか)を設置します。高さ制限スリットはキャピラリの太さより少し広めにして,完浴となるようにします。
現状では,キャピラリ回転試料台の回転軸が,ゴニオメータの軸から垂直方向には 0.03 mm 程度ずれています。また,水平方向には 0.1 mm 程度ずれていると思われます。

(2) キャピラリ試料の 2Θ 走査測定をする際には,Θ 軸は 0° 付近の値に固定したまま行います。

(3) キャピラリ試料からの回折ビームの太さは,どの回折角でもキャピラリ試料の太さ wCS と同じ太さになるので,アナライザ部のエッジ幅 wAE は原理的には wAEwCS / 2 cos ΘA ∼ wCS / 2 まで狭くすることができます(ΘA はアナライザのブラッグ角)。ただしエッジ幅駆動機構の精度は高くないので,1 mm 程度の余裕を見た方が安全でしょう。設定すべきアナライザ部エッジ幅としては「(キャピラリ太さの半分)+(1 mm)+α」がおよその目安になります。


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2013年6月14日更新