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2.6.1 NOT 回路; NOT circuit

NOT 演算を電子回路で実現するためには, 「入力が 0 V なら +5 V を出力し,入力が +5 V なら 0 V を出力する」回路を作ればよいことになります。 そのような回路のことを NOT 回路と呼びます。 トランジスタを使った NOT 回路は図 2.3 のようなものです。


図 2.3 トランジスタを使った NOT 回路

図 2.3 の中で「横棒に小さな黒丸,横に +5 V と書いてある」記号は, +5 V の電源(のプラス側の端子)に接続することを表していて, また「横棒の下にななめの線」の記号はアース(地球)earth とかグランド(地面)ground と呼ばれるもので, 実際には +5 V の電源のマイナス側の端子に接続することを表しています。 「ギザギザの線」は抵抗器 resistor を表していて,普通はだいたい 1 kΩ くらいの値のものを使います。 どうして抵抗器をつなぐのかについては後で説明します。 「丸に縦棒と3本の線,そのうち一つは外に向いた矢印」の記号は (NPN 型)トランジスタを表しています(図 2.4)。


図 2.4 (NPN 型) トランジスタの回路記号と構造

NPN 型のトランジスタは N 型半導体の間を薄い P 型半導体ではさんだ構造を持っています。 トランジスタから出ている3本の線にはそれぞれ名前がついていて,ベース base,コレクタ collecter,エミッタ emitter と呼びます。ベースは P 型半導体の薄い層に接続されていて,コレクタとエミッタは 両側の N 型半導体に接続されています。

トランジスタがどのように動作するかは,ややわかりにくいのではないかと思いますが, 「ベース B からエミッタ E に少し電流を流すと,コレクタ C からエミッタ E へと電流が流れやすくなる」 というはたらきをするものであると考えてください。 別の言い方をすれば,「ベースからエミッタへ流れる小さい電流で, コレクタからエミッタへ流れる電流を制御することができる」素子ということになります。


図 2.5 リレーの模式図。スイッチはバネの力で通常 OFF の状態になっている。 入力端子 1 から入力端子 2 に電流を流すと,スイッチの鉄片が電磁石に吸い寄せられて ON になる。

図 2.5 に示す「リレー」という素子が,論理回路ではトランジスタと同じはたらきをすると考えれば, わかりすいのではないかと思います。 リレーとは,図で示したように,電磁石でスイッチをオンにしたりオフにしたりするような素子です。

リレーを使った NOT 回路を図 2.6 に示します。



図 2.6リレーによる NOT 回路。(a) 入力が 0 V のとき,出力は +5 V である。 (b) 入力に +5 V をかけると,出力が 0 V になる。

入力が 0 V のとき,スイッチはバネの力で OFF になっているので, 抵抗を介して +5 V 電源と接続されている出力の電圧は +5 V になります。 入力が +5 V のとき,電磁石の力でスイッチが ON になるので,出力はグランドと接続されて 0 V になります。

電磁石に使われているコイルの抵抗はふつう小さいので,直接 +5 V をかけると電流が流れ過ぎてしまい, 無駄な電力消費や発熱の原因になり,最悪の場合にはコイルが焼き切れてしまいます。 入力側の抵抗は,この電流を制限するはたらきを持ち,「電流制限抵抗」と呼ばれます。 出力側の抵抗はリレースイッチ OFF のときに出力電圧を +5 V まで引っ張りあげる働きを持つので, 「プルアップ抵抗」と呼ばれます。 トランジスタを使った NOT 回路でも,入力側と出力側の2つの抵抗のはたらきは, リレーの場合とほとんど同じと考えて結構です。


図 2.7 NOT 回路のはたらき。つねに聞いたことと反対のことを言う人と同じことである。

NOT 回路のはたらきは,図 2.7 のように,「つねに聞いたことと反対のことを言う人」 とだいたい同じことです。

NOT 回路は情報の劣化を防ぐはたらきも持ちます。 これもリレーを使った NOT 回路(図 2.6)で考えるとわかりやすいと思います。 バネの力に応じて電流制限抵抗の大きさを調節してやれば,たとえばちょうど +2.5 V 以上のときにスイッチが ON になり, +2.5 V 未満の電圧ではスイッチが OFF になるようにすることができるでしょう。 つまり,入力が +2.5 V 未満では +5 V を出力し,入力が +2.5 V 以上では 0 V を出力する回路を実現することができます。


図 2.8 NOT 回路のはたらき(2)。つねに聞いたことと反対のことを強く言い切る。

この場合,図 2.8 のように,「つねに聞いたことと反対のことを強く言い切る人」と同じことですね。


図 2.9 NOT 回路の回路記号

論理回路では,NOT 回路をひとまとまりとして,図 2.9 のような記号であらわします。 また,これを「NOT 素子」と呼びます。記号では +5 V とグランドに接続する線を省略します。



図 2.10 バッファ回路の回路記号とはたらき。「つねに同じ方向の意見を強く言い切る人」と同じことである。

NOT 回路を2つ直列に接続すれば,「反対の反対は賛成」ですから,図 2.10 のように 「つねに同じ方向の意見を強く言い切る人」と同じことになります。このような回路をバッファ回路と呼びます。 バッファ回路を使えば,何かの原因で入力がちょうど 0 V か +5 V でなくても出力は必ず 0 V か +5 V になるわけです。 論理演算としては何もしていないのと同じことですが, 実際に正しく動作する論理回路を製作するためには必要になる場合があります。


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2004-04-17