ページのレイアウトを定義する前に,以下の合成フォントを定義しておきます。 この後で定義する「グリッドフォーマット」(原稿用紙のようなスタイル)や, 文字フォーマット,段落フォーマットを定義する前に合成フォントを定義しておく方が, 後の作業が楽になるからです。 合成フォントを用いることにより,文章(テキスト)中の日本語コード(全角)部分には和文フォント, 英数字コード(半角)部分には欧文フォントが自動的に適用されます。
1.小塚明朝+Times:「小塚明朝 Pro R」 (小塚明朝 Pro, レギュラー)フォントに 「Times Regular フォントを 110%に拡大したフォント」を組み合わせたものです。Times フォントは小塚明朝と並べると字の高さが低すぎてバランスが悪くなるので 110% に拡大します。 本文は原則的にこの合成フォントを使って表示することにします。 また,この合成フォントをグリッドフォーマットの定義に使います。
2.小塚明朝+Times-Italic:「小塚明朝 Pro R」 に 「Times Italic フォントを 110%に拡大したフォント」 を組み合わせたものです。 英語の論文では,参考文献中の書籍名や雑誌名が欧文の場合に Italic 字体を使用する慣例がありますが, Italic 字体の英小文字は筆記体風の形状を持つものであり,全体として右に傾いていますが (普通の) Roman 字体を傾けただけのものではありません。 日本語文字と英文字が組み合わされた書名の場合に, 日本語文字を斜体にするとバランスが悪くなります。 むしろ日本語フォント部分は本文と同じ字形とした方が落ち着いた感じになります。 「日本語は通常どおり,英文字はイタリック」という合成フォントを定義しておくことにより, 英文字を含む書名全体にこのフォントを適用できるようにしました。
3.小塚明朝+Times-Bold:「小塚明朝 Pro B」(小塚明朝 Pro, ボールド)に 「Times Bold フォントを 110%に拡大したフォント」を組み合わせたものです。 これも主に参考文献中の論文の巻番号を bold 字体にする慣例に対応するためのものです。 本文中での使用頻度は高くありませんが, 図表キャプションの見出しなど,明朝系(セリフ系)の太字を使用する場合にも使う場合があります。 本文中の見出しなどにはゴシック系(サンセリフ系)のフォントを使います。
[書式]→[合成フォント...] を選びます。 新しく合成フォントを定義するには[新規...]ボタンをクリックしますが, 既に合成フォントの定義された InDesign ドキュメントファイルがあれば, [読み込み...]ボタンから,指定した InDesign ファイル中の合成フォントの定義だけを読み込むことができます。
セラ研年報の本文で使う日本語フォントのサイズは 13級 とします (InDesign では 13Q と表されます)。 タイトル文字の大きさなどは別に定義します。
級 (Q) とポイント (pt) はいずれも文字の大きさを表す単位です。 1級 = 0.25 mm, 1pt = 1/72 inch = 0.353 mm の関係があります。
セラ研年報では,以下のフォントサイズを使っています。 添字は標準設定のまま倍率を 73.3%としますが, 日本語フォントサイズを基準とすれば,110%×73.3%=80.7%となります。
和文フォント | 欧文通常(110%) | 欧文添字(80.7%) | 用途の例 | ||
---|---|---|---|---|---|
20 Q | 14.17 pt | 5 mm | 15.59 pt | 11.43 pt | 記事タイトル |
16 Q | 11.34 pt | 4 mm | 12.47 pt | 9.15 pt | 著者名 |
13 Q | 9.21 pt | 3.25 mm | 10.13 pt | 7.43 pt | 本文 |
12 Q | 8.50 pt | 3 mm | 9.35 pt | 6.86 pt | 著者所属 |
11 Q | 7.80 pt | 2.75 mm | 8.58 pt | 6.29 pt | 要旨,図表キャプション,表本体 |
10 Q | 7.09 pt | 2.5 mm | 7.80 pt | 5.72 pt | ヘッダ,ページ番号 |
セラ研年報では,日本語フォントと欧文フォントを混合して植字すること(和欧混植)を前提とします。
実際の編集作業を始める以前は, 「合成フォント」を定義しなくても,英数字が出現するたびに欧文フォント指定をすれば良いかと思っていたのですが, 合成フォントを定義しないと,段の1行目に英数字が含まれる場合に余計な空行が入ってしまうという現象がありました。 これは日本語フォントのサイズとバランスをとるために欧文フォントを110%拡大していることによると思われます。 試行錯誤の結果,この問題は日本語フォントと欧文フォントを合成した「合成フォント」を用いれば解消されることに気づきました。 これは正当な対処法ではないと思いますが, 実際に「合成フォント」を定義すると他の点でも使い勝手が良くなるので, それ以後は合成フォントを用いることにしました。
ただし,「合成フォント」の使用は Adobe InDesign の機能に依存すると思われます。 版組データが使用するソフトウェアの機能にあまり依存しすぎると可搬性が損なわれる (他のソフトウェアを使えなくなる)危険性もあり, 将来は再検討が必要になるかもしれません。
日本語フォントにも必ず英数字の文字データは含まれているのですが, セラ研年報では,日本語で書かれた文章中の「英数字」には欧文フォントを使うことにします。 後述する理由で,日本語で書かれた文章でも,イタリック体の英文字を使う必要のあることが主な理由です。 日本語フォントに含まれる文字データには普通イタリック体のフォントは含まれていませんし, 論文中で多用される場合のある数式の中で日本語フォントが使いづらいのも欧文フォントを使う理由の一つです。
数学,物理,化学の分野では,慣習としてひとつの文字に特定の意味を持たせたり, 字の形にまで特別な意味を持たせる場合があります。 セラ研年報に含まれる学術的な内容の文章の中では,特に化学式,物理量,単位,数値が特別な意味を持ちます。
例えば,円周率をπ(ギリシャ文字小文字のパイ)で表したり, 角度を表す変数にはθ(ギリシャ文字小文字のシータ)を使うのが普通です。 物理量を表す記号にはイタリック体のアルファベットを使い, 基本的な物理定数の多くには特定の文字があてられます。 (真空中の光速に c, 素電荷に e など)。 物理量の単位(キログラム,メートル,秒)にはローマン体アルファベット kg, m, s などが使われます。 化学物質を表現する目的でローマン体アルファベットで表現される元素記号 H, He, Li, Be, ... を使った化学式を使い, 原子価を表現するためにローマ数字 (I, II, III,IV, ...) を使います。
欧文フォントを使うことには「やむをえない」というだけでなく, 表現手法として効果的な場合もあるようです。 一般的に,日本語の文章の中で欧文フォントを使うことには, 欧文フォントで表現される内容を際立たせたり, 見た目の調子を変えて読者を視覚的に飽きさせない効果がありますし, 逆に読者に読み飛ばさせて文章の流れをスムーズにする効果もあると思います。
日本語フォントとしては InDesign に付属する「小塚明朝」および「小塚ゴシック」のみを使います。 Windows も含めて Microsoft 社のソフトウェアに標準的に付属する「MS明朝」「MSゴシック」は, 一切使いません。 "小塚明朝"フォントは日本語版の InDesgin に標準で付属しており,EL(extra light), L(light), R(regular), M(medium), B(bold), H(heavy) の6種類の文字太さを選べます。 DTPではよく使われるフォントのようです。 2006年度のセラ研年報中では regular と bold しか使っていませんが, 将来は,オンライン版と印刷版とで文字太さを変えるような調整をする場合もありうるでしょう。
英数字には原則的に "Times" フォントを使用しています。 日本では最も良く使われて,入手しやすい欧文フォントだと思われます。 一方で,"Times Regular" フォントは文字の線(特に縦に走る線)が太めなので, 英文の記事の場合,印刷した誌面が全体に黒っぽくなってしまうという不満もあります。
しかし,他の一般的な英数字フォントは, ギリシャ文字に普通に使われる "Symbol Regular" フォントと字形が揃えられません。 "Symbol Regular" フォントと "Times Regular" フォントは確実に似た字形が得られますし, 少し古いソフトウェアも含めて,多くのソフトウェアが対応できるギリシャ文字フォントとして, 現状では "Symbol Regular" が最も確実なので, それに合わせて英数字には Times フォントを用いることにしました。
また Times フォントは,縦に走る線が太目であることが幸いし, 添字や注釈,キャプションなど小さい文字でも印刷がかすれにくく, 読み取りやすい字形です。
筆者の環境 (Mac OS 10.3) では Times 系のフォントとして, "Times" フォントと "Times New Roman" フォント(いずれも TrueType)のいずれかを選べましたが, 今回は "Times" フォントを用いることにしました。 "Times New Roman" フォントを用いると, ワープロソフト画面上では同じポイント数の "Symbol" フォントとの見た目の大きさが揃わず見苦しかったからです。
"Times Regular" と "Symbol Regular" フォントはポストスクリプト PostScript あるいは トゥルータイプ TrueType フォントに分類されます。 これらはやや古い規格に属するものであり, 将来はオープンタイプ OpenType フォント (OTF) の使用を検討した方が良いでしょう。
2006年度責任編集者:井田 隆
2007年04月13日