名工大 / セラ研 / 解析システム研究グループ /

研究紹介


放射光・X線回折法,計算機シミュレーションを用いてセラミックス材料の構造を解明し、 また相組成や粒度、歪みを定量的に評価することを目的として、 その方法論の開発研究を行っています。


(1) 単結晶構造解析による無機化合物の構造物性研究

無機化合物は,原料の組成や作製条件が違っていたり, 温度や圧力などの環境が違っていると, 意外なくらいに多彩な構造を示すものです。
工業的な材料の性能や品質を管理するためにも, 新しい材料や製造プロセスを設計するためにも, 物質の構造を正しく評価することは必要不可欠です。
われわれの研究室では, 無機化合物の構造をさまざまな実験や計算機シミュレーションにより調べ, 無機化合物が示す物理的・化学的な性質をより深く本質的に理解するための研究に取り組んでいます。
Gd3RuO7

Gd3RuO7 の結晶構造。 薄紫と薄緑の八面体は二種類の RuO6 配位多面体, 赤色と薄青色の楕円体は Gd と Ru イオンの熱振動の大きさを表しています。 図の上下方向に化学結合が一次元的につながった特殊な構造を持ち, 奇妙な電気伝導性を示すことから興味が持たれている物質です。 精密なX線回折実験と注意深い解析によってはじめて正しい構造を明らかにしました。 [Ishizawa et al., Acta Cryst. E, 62, i13-i16 (2006).]

LiMn2O4

LiMn2O4 の結晶構造(一部)。 Li, Mn, O 原子をそれぞれ赤色, 黄色, 薄青色で表しています。 リチウムイオン二次電池の電極材料として期待されている物質ですが, 詳しい構造にはまだ正確にわかっていないところがありました。 シンクロトロン軌道放射光を使った単結晶回折実験により, 室温付近での安定相の構造を初めて導きました。 [Tateishi et al., Acta Cryst. E, 60, i18-i21 (2004).]


(2) 高温単結晶X線回折装置の開発

セラミックスは原料を高温で処理して作製される材料ですから, 高い温度で物質がどのような構造をとるか実験的に調べることは, セラミックスの性質を理解するために決定的に重要です。
本研究室では CCD(電荷結合素子)により迅速にX線回折データを収集できる最先端の実験室X線回折計に, 1000℃まで試料を加熱できる昇温装置を設置した高温単結晶X線回折装置を開発しています。
high temperature apparatus

CCD X線回折計に設置された昇温装置。 A: 試料設置部;B: CCD 検出器; C: 全反射集光器; D: 顕微鏡; E: 高温ガス発生部; F: 高温ガス回収部; G: 高温ガス回収部位置調整具; H: 加熱部位置調整具; I: 樹脂(カプトン)膜; K: 2Θアーム部; L: ω駆動台。 [Ishizawa et al., セラミックス基盤工学研究センター年報, 6, 19-22 (2007)]


(3) 放射光および実験室系高性能粉末回折装置の開発

世界初の多連装計数装置を備えた放射光粉末回折装置, 平行ビーム光学系に基づいた高性能 2 軸回折計の開発など, 粉末や多結晶体試料の構造を解析するために必要な回折装置の設計・開発と精密な性能評価、 数学的なモデル化を行っています。 multiple detector system

つくば高エネルギー物理学研究機構 (KEK) に設置された検出器六連装型粉末X線回折計。 [Toraya et al., J. Synchrotron Rad., 3, 75-83 (1996)]
当研究室は KEK フォトンファクトリー (PF) の粉末回折ビームライン BL-4B2 の保守・整備・ユーザサポートに協力しています。
[→検出器多連装型粉末回折計 MDS について]


(4) 粉末回折データ解析法とソフトウェアの開発

測定した回折強度データを解析するための回折ピーク形状モデルや、 計算を高精度化あるいは効率化するためのアルゴリズム,パターン分解法、 リートベルト法、確率論的な構造推定など新しい解析手法の確立と 実用的なコンピュータソフトウェアの開発を行っています。 deconvolution, 1

高速フーリエ変換アルゴリズムを利用した装置収差の高速補正 (全体図)。 実測のデータから装置による「ぼやけ」や「ゴースト」を除去し,くっきりとした強度図形を導くソフトウェアを開発しました。
[Ida & Toraya, J. Appl. Cryst., 35, 58-68 (2002).]

deconvolution, 1

高速フーリエ変換アルゴリズムを利用した装置収差の高速補正(拡大図)。上から順に,(a) 生データ,(b) Kα2 サブピークと軸発散収差高角側成分除去, (c) 軸発散収差低角側成分と平板試料収差の除去, (d) 試料透過性収差除去の各段階でどのように回折ピーク形状が変化するかを示します。


2008年1月22日更新