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2.1 電子回路 electronic circuit

「電子回路」という言葉は,もともと「真空管を使った電気回路」という意味だったのではないかと思います。真空管の一例は二極管と呼ばれるもので,図 2.1 のような構造をしています。これは内部を真空にして密閉したガラス管に,2つの電極を挿入して一方の電極を加熱できるようにしてあるものです。



図 2.1 二極管,真空管ダイオード

このとき,加熱された電極からは熱によって電子が放出される(この効果をエジソン効果というそうです)ので,この電極にマイナスの電圧をかけてもう一方の電極にプラスの電圧をかければ,マイナスと反発してプラスに引き寄せられる電子が真空中を飛行することによって電流が流れます。もしこれと逆向きの電圧をかけたとしても冷たい電極から放出される電子は少ないので,電流はずっと流れにくくなります。

このような真空管は,電極が二つあることから二極管,ダイオードと呼ばれ,「電流の流れやすさが向きによって異なる」という面白い性質を持っています(この性質は面白いと言うだけでなく,非常に多くの目的で有用です)。

この二極管で,マイナスの電圧をかける電極の方を「陰極」(カソード cathode) ,プラスの方を「陽極」(アノード anode) または「プレート」 (plate)と呼びます(化学では陽イオンのことをカチオン cation,陰イオンのことをアニオン anion と呼ぶので混同しないように)。



図 2.2 三極管

図 2.2 のように,陰極と陽極の間に接触しないように金属製の網をはさんで3つ目の電極とすると, この電極にかける電圧によって陰極から陽極へ飛行する電子の流れをコントロールすることができます。 この電極をグリッド(格子)と呼びますが, グリッドにたとえばプラスの電圧をかけると, 陰極から放出された電子がプラスの方に向かっていこうとするので流れる電流が増え, グリッドにかける電圧をマイナス側に変化させれば流れる電流が減るというわけです。 このような真空管のことを三極管と呼び,電力を増幅する目的で使われます。

三極管が電力を増幅する作用を以下のように説明することができます。 陰極から放出された電子は,はじめはグリッドの方向に吸い寄せられて行きます。 一部の電子はグリッドの網にぶつかってしまうでしょうが, 大部分の電子は勢い余ってグリッドの網の目をすり抜けて陽極まで飛んでいきます。 そこで,陰極からグリッドへの電子の流れに比べて陰極から陽極への電子の流れの方がずっと大きくなるということになります。 つまり,わずかな電流で大きな電流を制御できることになるわけです。

さて,ふつうの金属線ならば,電子が移動しているとしても目には見えないし良くわかりませんけれど, この「真空管」の中では,金属線がつながっていないのに電流が流れているわけだから, 確かにいかにも「電子が真空中を飛行して移動している」ように見えますよね。 そんな意味で,このような真空管を利用した電気回路 electric circuit のことを特別に 「電子回路」"electronic circuit" と呼ぶことになったのだと思います。


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2004-04-17