名古屋工業大学 / セラミックス基盤工学研究センター / 解析設計研究部門 / 解析システム研究グループ /

研究業績 (1999年9月〜2001年3月)

構造解析部門 

(解析システム研究グループ)


<論文・著書>


[1] Effect of Sample Transparency in Powder Diffractometry with Bragg-Brentano Geometry as a Convolution

井田 隆,木村啓作

J. Appl. Cryst., 32, 982-991 (1999).

Bragg-Brentano 型の粉末回折計について,試料の透過性と有限な厚さがピーク形状に及ぼす効果を畳み込みとして扱うための数学的な形式を導いた。実測のピーク形状モデルは擬Voigt関数に対して平板試料効果,軸発散効果,試料の透過性の効果を3重に畳み込んだ形式により与えられる。このモデル関数を用いることにより,LaB6をデンプンで希釈した試料について観測された著しく歪んだピーク形状が非常に良く再現されることを示した。


[2] Parallel-Slit Analyzer Developed for the Purpose of Lowering Tails of Diffraction Profiles

藤縄 剛,虎谷秀穂,J.-L. Staudenmann

J. Appl. Cryst., 32, 1145-1151 (1999).

回折線プロファイルの裾野を下げることができる平行スリットを新たに開発した。目的に適した箔材を検討するため,燒結および表面処理したタングステン(W),ステンレス鋼(SUS),ベリリウム青銅(Cu98Be2),及び表面処理したベリリウム青銅(CuOx)の4種の材料を使用した。平行ビーム光学系にて試験した結果,WおよびCuOxが80%ガウス型プロファイルを与え,高い性能を示した。箔材料の表面処理に全反射を抑制する効果があると考えられる。


[3] Quantitative Phase Analysis of the Natural Products using Whole-Powder-Pattern Decomposition

林 茂雄,虎谷秀穂

Powder Diffraction, 15, 86-90 (2000).

全粉末パターン分解法(WPPD法)を用いた定量分析法を3〜6成分系の人工混合鉱物試料と陶磁器用坏土(天然原料)に適用して,その有効性を検討した。人工混合鉱物試料における定量誤差の平均値は1wt%以下となり,正確な定量結果が得られることを示した。また,WPPD法により求めた陶磁器用坏土の鉱物組成から計算した酸化物の化学組成と蛍光X線分析による化学分析結果とは良い一致を示した。


[4] Crystal Structure Refinement of α-Si3N4 Using Synchrotron Radiation Powder Diffraction Data: Unbiased Refinement Strategy

虎谷秀穂

J. Appl. Cryst., 33, 95-102 (2000).

α型窒化ケイ素 (α-Si3N4) の結晶構造を放射光粉末回折データ(波長1.2Å)を用い,リートベルト法によって精密化した。最小二乗法フィッティングによる精密化において新しく導入された重み関数を用いた。粉末回折データから正確な構造パラメータを導き出すためには,1) 十分なsinθ/λ域,2) 適切な計数統計,3) 正しいプロファイルモデル,4) 観測データに対する適切な重み付け,および5) 高分解能回折データが必要であることが明らかにされた。


[5] Extended Pseudo-Voigt Function for Approximating the Voigt Profile

井田 隆,安藤真隆,虎谷秀穂

J. Appl. Cryst., 33, 1311-1316 (2000).

粉末回折ピークプロファイルの自然な理論モデルであるVoigt関数への近似の精度を向上する擬Voigt関数の拡張形式を導いた。最適化されたパラメータを用いた拡張擬Voigt関数のVoigtプロファイルからのずれはピーク値に対して 0.12 % 以内である。この拡張形式の計算に要する時間は,Thompsonらが提案した擬 Voigt近似の形式 [Thompson, Cox & Hastings (1987).  J. Appl. Cryst., 20, 79-83] に対して約2.5倍であるが,Voigtプロファイルに対する当てはめに応用した場合に見積もられるプロファイルパラメータの系統誤差は1/10程度以下になることが明らかとなった。


[6] Kα1-Kα2 Characteristic of a Parabolic Graded Multilayer

虎谷秀穂,日比野寿

J. Appl. Cryst., 33, 1317-1323 (2000).

放物面多層膜(PGM)から反射されたKα1-Kα2線のプロファイル形状を,レイトレーシングおよびロッキングカーブ測定の手法を用いて解析した。積分反射強度およびKα1/Kα2比は,PGMへの入射角の変化によって変化し,それらの変化率はPGMの分解能の向上に伴って増大することを示した。試料から反射したKα1とKα2線の角度距離は,波長から計算された距離に比べて,多層膜と試料が++配置の場合に僅かに増加し,反対に+-配置の場合に僅かに減少することを予測し,その値が実験値と一致する事を確認した。


[7] Estimation of Statistical Uncertainties in Quantitative Phase Analysis Using the Rietveld Method and the Whole-Powder-Pattern Decomposition Method

虎谷秀穂

J. Appl. Cryst., 33, 1324-1328 (2000).

リートベルト法および全パターン分解法を用いた定量分析における統計誤差を理論的に推定する公式を導いた。統計誤差の相対的大きさは,全プロファイル強度の総和の平方根に逆比例する。よって,ステップ幅を半分にすれば強度の総和は二倍になり,相対誤差は1/√2に減少する。一方,強度の総和は計数時間に比例するので,よって相対誤差は計数時間の平方根に逆比例して減少する。測定範囲を高角側に延長することは,プロファイル強度が弱い場合には誤差の改善に効果が少ないことを明らかにした。得られた公式は,強度測定のための実験条件最適化に使用することができる。


[8] モンテカルロ法を用いた粉末回折データからの未知結晶構造決定

虎谷秀穂

Photon Factory News, 18, 33-37 (2000).

分子性結晶を中心とした有機物の構造解析に使用されてきたモンテカルロ法を,無機物質の未知結晶構造決定へ適用する際に問題となる点に関して記した。解析の理論に関して簡単に述べ,解の出現頻度を支配する要因に関して考察を与えた。また,モンテカルロ法を無機物質へ適用する際に避けて通れない特殊同価点位置の問題を論じた。解析例として2,2-dihydroxymethykbutanoic acidの構造内に存在する10個の独立原子の内,直接法で見つけることができなかった3個の原子をモンテカルロ法によって解析した例,11 Åトバモライト結晶のフレームワーク中において所在が明きらかでなかったCaおよび水分子の位置を解析した例を与えた。


<口頭発表>


[1] モンテカルロ法を用いた未知結晶構造のリートベルト解析

中村久芳,虎谷秀穂

日本結晶学会年会,1999年11月,京都

結晶解析の分野においては,モンテカルロ法は分子性結晶である有機物の構造解析に専ら使用されてきた。この方法を剛体近似の適用が困難である無機物質の未知結晶構造決定へ適用するため,モンテカルロ法によって原子位置を探索する計算機用プログラムを開発した。評価関数として観測および計算プロファイル強度の重み付き残差の二乗和を用いた。この方法をα-SiO2,Mg2SiO4等の比較的簡単な構造をもつ無機物質の解析に適用して試験をし,前者においては全原子,後者においては6個の独立原子中,4個の原子を剛体近似の適用無しに見つけられることを示した。


[2] Sayreの二乗法による完全に重なった粉末回折線の分解法について

山田英一,虎谷秀穂

日本結晶学会年会,1999年11月,京都

Davidによって提案されたSayreの二乗式を用いて重なった反射を分解する方法を反復的に適用することで,分解の精度を向上させる事を試みた。また,得られた反射データに直接法を適用して実際に構造を解き,その効果を調べた。この方法が用いている「結晶が同じ原子散乱因子をもつ原子から構成されている」という前提がほぼ成り立つCaCl2およびMg2SiO4に対しては,この方法による分解精度の向上を確認できた。一方,この前提をかなり外れるBaTiO3およびZrSiO4に対しては顕著な改善が見られなかった。


[3] Bragg-Brentano型粉末回折計の装置関数

井田 隆,虎谷秀穂

日本結晶学会年会,1999年11月,京都

Bragg-Brentano 型の粉末回折計について,軸発散効果と平板試料効果,試料の透過性の効果を考慮に入れた装置関数と回折ピーク形状モデルの形式を提案し,実験的な検証を行った。試料の透過性が高いとピーク形状の歪みが顕著になり,見かけ上ピーク位置が低角側にシフトするが,このような変化をモデルプロファイルが非常に良く再現できることを示した。


[4] 特性X線に対する平行ビーム用放物面ミラーのレイトレーシング

虎谷秀穂,日比野寿

日本結晶学会年会,1999年11月,京都

放物面多層膜(PGM)から反射されたKα1-Kα2線のプロファイル形状を,レイトレーシングおよびロッキングカーブ測定の手法を用いて解析した。積分反射強度およびKα1/Kα2比は,PGMへの入射角の変化によって変化し,それらの変化率はPGMの分解能の向上に伴って増大することを示した。試料から反射したKα1とKα2線の角度距離は,波長から計算された距離に比べて,多層膜と試料が++配置の場合に僅かに増加し,反対に+-配置の場合に僅かに減少することを予測し,その値が実験値と一致する事を確認した。


[5] 放射光粉末回折データを用いたジメチロールブタン酸の未知結晶構造決定

棚橋優策,山嵜 悟,小島優子,虎谷秀穂

日本結晶学会年会,1999年11月,京都

単斜晶ジメチロールブタン酸2,2-dihydroxy-methylbutanoic acid (C6H12O4) について,放射光粉末回折データを用いてab initio法で結晶構造を決定した。最初の段階では直接法によって2つの酸素原子と5つの炭素原子の位置が導かれた。直接法で見つけられなかった2つの酸素原子と1つの炭素原子の位置は,類似構造物質から座標を推定し,リートベルト法により確認した。最終段階において全ての非水素原子の位置パラメータと等方性温度因子パラメータをリートベルト法によって精密化した。分子間には水素結合が存在し, (010) 面に平行なシート状のネットワークが形成されていることが見出された。


[6] 六方晶ダイアモンドの構造精密化

村井 悠,吉朝 郎,土屋卓久,大高 理,山中高光,桂 智男,虎谷秀穂

日本結晶学会年会,1999年11月,京都

天然グラファイトを出発原料とし,マルチアンビルプレスを用いて加圧,それに引き続く加熱後,急冷して六方晶ダイアモンドを合成した。得られた試料を放射光粉末回折装置,実験室系X線粉末回折装置,および単結晶回折装置を用いて解析した。得られた回折図形においては,101,102,103反射の強度が著しく弱く,この観察結果をウルツ鉱構造のBNと比較して論じた。測定された格子定数の値は,その場観察の外挿値および理論計算から得られた値と良い一致を示した。


[7] 高分解能放射光粉末回折による結晶構造解析法の開発研究

虎谷秀穂,日比野寿,山嵜 悟,井田 隆,中村久芳,山田英一,棚橋優策,大西智彦,服部浩和,田中雅彦,大隅一政

第17回PFシンポジウム,1999年12月,つくば

高エネルギー加速器研究機構放射光研究施設フォトンファクトリーにおけるS1課題(98S1-001) 実施に伴う1999年度研究成果に関して報告した。主な成果として,1) 強度データ接続法の改良,2) Sayreの二乗法を適用したパターン分解法の開発,3) モンテカルロ法を用いた結晶構造決定法の開発,4) 未知結晶構造の解析,5) 粉末法による構造精密化の精度の向上に関して述べた。


[8] 高エネルギー・高分解能X線粉末回折データを用いたMg2SiO4のリートベルト解析

虎谷秀穂,奥寺浩樹,日比野寿,山嵜 悟,池田直,野田幸男

第13回日本放射光学会年会・放射光科学合同シンポジウム,2000年1月,岡崎

放射光を用いて得られる高エネルギー・高分解能粉末回折データ[25keV(λ=0.5Å)]を収集し,それが解析精度に与える影響を調べた。放射光データの収集には,SPring-8,BL02B1実験ステーション,偏向磁石光源を用いた。精度検定の標準試料としてMg2SiO4粉末を用い, Si(111)二結晶モノクロメータで単色光化したX線を入射ビームとし,7軸回折計[Si(220)アナライザー結晶]により,透過法および反射法を用いて測定した。リートベルト解析の結果,透過法で測定したデータを用いた場合,原子座標に対する精度の指標は0.007Åであり,反射法の場合,0.011Åであった。


[9] Standardless Estimation of Lattice Constants Based on Fundamental-Parameters Method

井田 隆,虎谷秀穂

第7回ヨーロッパ粉末回折国際会議,2000年5月,バルセロナ,スペイン

X線源の分光学的な形状と装置関数とを畳み込んだ形式を用いたピーク形状モデル関数を用いることにより,実験室で最も広く用いられているBragg-Brentano型の粉末回折計により収集された回折データから装置の影響を受けない本来のピーク位置を正確に見積もることができることを明らかにした。また,この方法を応用することにより,標準物質を用いることなしに被検試料の格子定数を高い精度で決定しうることを示した。


[10] Estimation of Statistical Uncertainties in Quantitative Phase Analysis Using the Rietveld Method and the Whole-Powder-Pattern Decomposition Method

虎谷秀穂

第7回ヨーロッパ粉末回折国際会議,2000年5月,バルセロナ,スペイン

リートベルト法および全パターン分解法を用いた定量分析における統計誤差を理論的に推定する公式を導いた。統計誤差の相対的大きさは,全プロファイル強度の総和の平方根に逆比例する。よって,ステップ幅を半分にすれば強度の総和は二倍になり,相対誤差は1/√2に減少する。一方,強度の総和は計数時間に比例するので,よって相対誤差は計数時間の平方根に逆比例して減少する。測定範囲を高角側に延長することは,プロファイル強度が弱い場合には誤差の改善に効果が少ないことを明らかにした。得られた公式は,強度測定のための実験条件最適化に使用することができる。


[11] Ray-Tracing Study on a Kα1-Kα2 Characteristic of a Parabolic Graded Multilayer

虎谷秀穂

第49回デンバーX線会議,2000年8月,デンバー,アメリカ合衆国

放物面多層膜(PGM)から反射されたKα1-Kα2線のプロファイル形状を,レイトレーシングおよびロッキングカーブ測定の手法を用いて解析した。積分反射強度およびKα1/Kα2比は,PGMへの入射角の変化によって変化し,それらの変化率はPGMの分解能の向上に伴って増大することを示した。試料から反射したKα1とKα2線の角度距離は,波長から計算された距離に比べて,多層膜と試料が++配置の場合に僅かに増加し,反対に+?配置の場合に僅かに減少することを予測し,その値が実験値と一致する事を確認した。


[12] 放射光粉末回折法を用いた水熱合成Al-トバモライトの構造解析

山嵜 悟,虎谷秀穂

日本セラミックス協会秋季シンポジウム,2000年10月,小倉

セメント化学で重要な素材であるトバモライト(Ca5Si6O17・5H2O)の結晶構造を放射光粉末回折法によって解析した。水熱合成したAl-トバモライトの構造では,層間にCaと3個の水分子が存在し,含有するAlが架橋位置のSiを優先的に置換している。


[13] 高分解能放射光粉末回折データを用いた結晶構造解析

虎谷秀穂

日本鉱物学会年会,2000年11月,徳島

放射光を用いた解析に関するシンポジウムにおいて,高分解能放射光粉末回折データを用いた結晶構造解析を主テーマに解説した。放射光平行特性を用いた平行ビーム光学系の原理,得られる回折データの質,つくばの放射光施設フォトンファクトリーにおいて使用されている多連装計数装置を備えた粉末回折計光学系の仕様,強度測定のための代表的な実験手法,未知結晶構造決定およびリートベルト法による結晶構造精密化等の解析例に関して述べた。


[14] シリコン粉末の格子定数精密測定に関するラウンドロビン

藤縄 剛,井田 隆,虎谷秀穂

日本結晶学会年会,2000年11月,仙台

高純度Si粉末の格子定数測定精度に関するランドロビンを実施した。3者が参加し,平行ビーム光学系2台,集中法光学系1台が測定に使用された。各々10回の繰り返し測定(測定時の温度25±1°C)が行われた。回折線位置の決定にはプロファイルフィッティング法が使用され,格子定数の決定には最小二乗法が使用された。合計30回の測定に対し,平均値は5.43075Å,その平均値に対する標準偏差は0.00003 Å (6ppm) であった。


[15] 放射光粉末回折法による未知構造の解析

山嵜 悟

日本結晶学会年会, 2000年11月, 仙台

放射光粉末回折法を用いて無機物質の未知構造を解析するための測定法と解析法を紹介した。積分反射強度の代わりにプロファイル強度を用いる新しい手法(モンテカルロ法,シミュレーテッドアニーリング法等)を構造解析に用いることで,粉末法による未知構造決定ができることを示した。また,吸収を避けるために短波長を用いた透過配置による測定データは,結晶粒の配向が少なく,特に未知結晶構造決定に有利であることを示した。


[16] 軌道放射光粉末回折のためのピークプロファイル関数

井田 隆,日比野寿,虎谷秀穂

日本結晶学会年会, 2000年11月, 仙台

回折側に軸発散を抑えるためのソーラースリットと平板結晶アナライザを備えた高分解能軌道放射光粉末回折計について,回折光学系の幾何学的な配置に基づいた装置関数の正しい数学的な形式を導いた。さらに,対称なピーク関数とこの装置関数との畳み込みで定義される新しいモデルプロファイル関数を用いて実測のピークプロファイルの解析を試みた。つくばの軌道放射光施設において収集されたシリコン標準試料の粉末回折データに対するフィッティングの結果は極めて良い一致を示し,数学的なモデルの妥当性が示された。


[17] リートベルト法及び全パターン分解法を用いた相組成分析における統計的精度の理論的推定

虎谷秀穂

日本結晶学会年会, 2000年11月, 仙台

リートベルト法および全パターン分解法を用いた定量分析における統計誤差を理論的に推定する公式を導いた。統計誤差の相対的大きさは,全プロファイル強度の総和の平方根に逆比例する。よって,ステップ幅を半分にすれば強度の総和は二倍になり,相対誤差は1/√2に減少する。一方,強度の総和は計数時間に比例するので,よって相対誤差は計数時間の平方根に逆比例して減少する。測定範囲を高角側に延長することは,プロファイル強度が弱い場合には誤差の改善に効果が少ないことを明らかにした。得られた公式は,強度測定のための実験条件最適化に使用することができる。


[18] シミュレーテッドアニーリング法を用いた粉末回折データによる無機結晶構造決定

大西智彦,山嵜 悟,井田 隆,虎谷秀穂

日本結晶学会年会, 2000年11月, 仙台

粉末回折データから未知物質の結晶構造解析を行う際に必要な構造モデルを,シミュレーテッドアニーリング法を用いて導出する方法について述べた。剛体モデルを導入し,実空間で構造を解く方法が無機物質に対して有効であることを明らかにした。また,充分に質の高いデータが得られなかったために直接法では正しい構造モデルが導けない場合であっても,シミュレーテッドアニーリング法を適用することによって正しい構造モデルを導くことができることを示した。


[19] モンテカルロ法を使った放射光粉末回折データからの水熱合成Al-トバモライトの構造解析

山嵜 悟,虎谷秀穂

日本結晶学会年会, 2000年11月, 仙台

粉末回折データから未知結晶の構造モデルを導出するための新しい手法であるモンテカルロ法を用いて,Al-トバモライト[Ca5(Si,Al)6O17・5H2O]の構造を決定した。層間のCa原子と3個の水分子の位置がモンテカルロ法により探索され,これらの原子/分子を含む構造全体をリートベルト法にて精密化することで,トバモライトの構造を明らかにした。


[20] Voigt関数を近似するための拡張擬Voigt関数

安藤真隆,井田 隆,虎谷秀穂

日本結晶学会年会, 2000年11月, 仙台

Gaussian と Lorentzian 関数の重み付きの和として表される擬 Voigt 関数の形式に,これらの関数の中間的な形状を持つ無理関数と双曲正割関数の 2 種類のピーク関数を足し合わせることにより, Voigt 関数への近似の精度を向上させる新しい形式を導いた。この拡張擬 Voigt 関数近似の形式は,現在よく用いられる擬 Voigt 近似と比較して優れた精度を持つこと,さらに,この新しい形式を応用することにより統計誤差を含むデータからピーク形状パラメータを見積もる際の精度が向上されることを明らかにした。


[21] 新しい重み関数を用いたリートベルト法による構造精密化:重原子と軽原子からなる化合物への適用

服部浩和,山嵜 悟,井田 隆,虎谷秀穂

日本結晶学会年会, 2000年11月, 仙台

粉末X線回折法による構造精密化過程において,重原子と軽原子からなる物質では軽原子の座標決定精度が不充分である場合が多い。物質を構成する元素の原子番号の差が大きいものほど軽原子の精度が劣る傾向があることを示し,新しい重み関数を導入して各反射に対する重みつけを最適化することによって軽元素の座標精度が向上されることを明らかにした。


[22] 六方晶ダイア (lonsdaleite) とウルツ鉱型化合物の結晶構造パラメータの比較

吉朝 郎,村井 悠,大高 理,太田健一,桂 智男,虎谷秀穂

日本結晶学会年会, 2000年11月, 仙台

岡山大学固体地球科学センターにおけるマルチアンビルプレスを用い,六方晶ダイアモンドを合成した。得られた試料の粉末回折データを収集し,リートベルト法を用いて構造解析を行った。常温・常圧で安定なウルツ鉱型化合物の構造と比較して,六方晶ダイアモンドおよびウルツ鉱型BNは,格子軸比およびuパラメータに顕著な異常が見られた。これは,後二者においては構造が球の最密充填から大きく外れ,sp3の脱混成が有意に生じているためと考えられる。


[23] 高分解能放射光粉末回折による結晶構造解析法の開発研究

虎谷秀穂,井田 隆,日比野寿,山嵜 悟,大西智彦,棚橋優策,服部浩和,佐藤文治,安藤真隆,山本博司,田中雅彦,大隅一政

第18回PFシンポジウム,2000年12月,つくば

高エネルギー加速器研究機構放射光研究施設フォトンファクトリーにおけるS1課題(98S1-001) 実施に伴う2000年度研究成果に関して報告した。主な成果として,1) 粉末回折計の光学系をモデル化したプロファイル関数の開発,2) 直接法,モンテカルロ法およびシミュレーテッドアニーリング法を用いた未知結晶構造の解析,3) リートベルト法を中心にした粉末法による構造精密化の精度の向上に関して述べた。