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集中法型粉末回折計


回折ビームの高精度な角度分解は, 実験室型粉末回折計の多くに採用されている集中法(焦点法)型回折光学系を用いた場合には, 容易に実現されます。 集中法型光学系の場合には検出器手前の位置で回折ビームが焦点を結ぶので, ここに細いスリットを設置しさえすれば高精度な回折角度分解が可能になるのです。


実験室で用いられる通常の粉末回折計は,下の図で示されるような動作をします。 検出器を回転させる角度のちょうど半分の角度,試料も回転させます。

focal diffractometer


通常の X 線源から放射される入射X線ビームは平行ではなくて発光点を中心とした球面状に発散しているのですが, これを平板状の試料の表面付近で一定の回折角(散乱角)で反射させた場合には, 特定の位置で擬似的に焦点を結ぶ(集光する)という性質があります。

下の一連の図を見てください。 この一連の図では検出器を入射ビームに対して 30°, 60°, 90°, 120°の方向に移動させ, それに応じて平板状の試料を 15°, 30°, 45°, 60°傾けている場合を示しています。

Roland condition for 30 deg.

Roland condition for 60 deg.

Roland condition for 90 deg.

Roland condition for 120 deg.

図中に示されている赤い円はゴニオメータ円,青い円はローランド円と呼ばれるものです。

ゴニオメータ円は,試料を中心として検出器(あるいはその手前のスリット)を通る円であり, 検出器はこのゴニオメータ円に沿って移動します。

ローランド円は反射ビームが焦点を結ぶ位置の軌跡であり,「X線源を通り試料面に接する円」と見ることができます。 ローランド円上の一点から放射されたビームがローランド円上で一定の反射角で反射した場合には, 必ず同じローランド円上の一点に集まるという性質があります (このことは「円周角一定」の定理を使って説明することができます)。 試料面の傾きを変えればローランド円の中心位置も半径も変わります。 集中法型粉末回折計では,検出器の角度に応じた特定の角度に試料面を傾けることにより, ローランド円がちょうど検出器を通るようにします。 「X線源−試料間の距離」と「試料−検出器間の距離」が等しい場合, 「試料の面を検出器の半分だけ回転させる」ことによってこの条件(ローランド条件)が満たされます。

厳密には試料がローランド円の曲率に応じて湾曲していなければ焦点を結ばないのですが, 平板状の試料を使っても近似的に焦点が結ばれます (試料表面がローランド円から少しずれていることによる収差は平板試料収差と呼ばれ, この性質については良く知られています)。


通常の X 線源から放射される入射X線ビームは発光点を中心とした球面状に発散しているのですが, これを平板状の試料の表面付近で「回折角の半分の視斜角」で入射/反射させた場合には, 試料面法線に関してX線源と対称な位置で擬似的に焦点を結ぶ(集光する)という性質を利用することで, 実験室型の粉末回折計では高い角度分解能が容易に実現されているのです。


2006年9月25日
名古屋工業大学
セラミックス基盤工学研究センター
井田 隆

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